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透析患者さんに毎月配布する”江北の空から”を掲載します。
江北の空から 6号 20190307
少しづつ暖かくなってきました。
梅が満開になりました。早咲きの神津桜も咲いているそうです。越生の梅林に行きました。越生は埼玉医大の近くです。数年前には毎週出かけていました。埼玉医大に行ったわけではなく、その近くの弓立山のパラグライダースクールに行っていたのです。朝早くにマックで朝食をとっている時に埼玉医大の教授に遭遇したこともありました。空を飛ぶのは気持ちのいいものです。自由で束縛もなく広い空間に一人だけいるのは最高です。でも昨年から飛ぶのを止めました。体力の限界を感じたからです。飛ぶとき(take off)は良いのですが、降りるとき(landing)では足腰の力が必要です。トレーニングをしていますが、ヨロヨロすることもあり危険を感じて道具一式を寄付してきっぱりと止めました(記念にライセンスは持っています)。さて、越生の梅林ですが、昨年は梅の実を袋いっぱい取らせてもらいました。今年は梅の花を観賞です。ちょうど梅まつりをやっていて、同じぐらいの年齢の地元のおばあさんが元気に踊っていました。梅は健康にいいのでしょうか。クリニックをはじめとして、日本国中高齢者でいっぱいですね。日本はどうなってしまうのでしょうか。心配です。
あだち江北メディカルクリニックのホームページ https://iinoyasuhiko.wixsite.com/mysite
やよい会のホームページ http://yayoi-kai.jp
院長の伝言(カルシウムとリンの話)
今月はカルシウムとリンの話です。回診の時に血液検査を皆さんにお知らせしていますが、その中にリンが含まれています。リン(Pで表します)は体にとって重要な働きをしています。細胞がエネルギー源としているATP(アデノシン3リン酸、中学で習いましたね)にもリンが含まれています。また、人間の骨はリン酸カルシウムでできています。従って、リンは体にとって必要なのですが、多すぎると悪い作用をします。腎臓ではこのリンを調節して血液のリン濃度を一定にしています。しかし、腎臓が働かなくなった透析患者さんではリンが腎臓から排泄されずに血液中に溜まってきます。その結果、副甲状腺ホルモン(PTH)が上昇したり、骨がもろくなったり、血管が石灰化(動脈硬化)したりします。最も重要なことはリンの摂取量を低下させて血液中のリン濃度を抑えることですが、肉や乳製品などほとんどの食品にリンが含まれています。なるべくリンの少ない食品をとるのも重要ですが、食事のカロリーが減ると栄養障害が出てきます。透析患者さんの70%が栄養障害があるとの報告もあります。そこで食事はしっかり食べて、食品中のリンを腸内で吸着するリン吸着薬を服用してもらうのがいいと思います(リオナ、ピートル、キックリンなど)。その他にもPTHを減少させるオルケディアやパーサビブを使用することもあります。
動物の寿命と血液濃度のおもしろいデータがあります。表(英語ですいません)に示したようにリン濃度が低い動物の方が高い動物よりも長生きできるのです。これだけで何かを言うことはできませんが、透析患者さんではリンを低く保つことが重要です。
では、リンPとカルシウムCaをどのくらいにしたら良いのかですが、
3.5<P<6.0
8.4<Ca<10.0
を基準にして治療しています。
江北の空から 5号 20190214
梅の季節です。
2月に入り、梅の便りが聞こえてきました。週末には梅を観に出かけています。最初の週は、府中の郷土の森博物館です。蠟梅の黄色が森を染めていましたが、他の梅はほとんど咲いていません。ヤバイという梅がありました(野梅です)。2週目は池上梅園に行きました。八分咲きぐらいになり、紅梅、白梅を楽しめました。風は冷たいですが、春の気配は徐々に濃くなってきます。梅を観た後に池上本門寺(日蓮上人が入滅した場所です)を散策し、やよい会とも関係がある池上総合病院に寄ってから帰ってきました。散策の途中に力道山のお墓を偶然に発見し写真をとってきました。力道山と言っても知らない人が多いでしょうが、僕が小学生の時に床屋さんのテレビでやっていたプロレスを外から見ていた記憶があります。テレビがまだ各家庭に普及していないときですね。
あだち江北メディカルクリニックも多くのスタッフと患者さんのおかげで順調に安全に確実に患者中心に診療ができています。まだまだ足りないところはあると思いますが、これからも努力していくつもりです。おおくのスタッフと多くの患者さんが一緒に治療に参加することで、価値観も生活環境も違うので齟齬が出てくることも当然あります。一人一人が相手のことを思いやる気持ちが重要だと考えています。この“江北の空から”は医師サイドからの一方通行ですが、患者さんのなかでご意見があれば何なりと文章なり口頭なりでスタッフにお伝え願えると嬉しく思います。すべてが実現できるかはわかりませんが、できるだけの努力はしていくつもりです。
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院長の伝言(透析時間の話)
今月は透析時間のお話です。透析患者さんは通常、週3回4時間の血液透析を行っています。あだち江北メディカルクリニックが作成した(院長が作りました)、基本治療方針V4でも、基本は週3回4時間以上の透析をする(ただし、患者さんの意思を尊重し、増減は可)。必要ならば5時間透析を実施する。適応があればHDFを積極的に施行する。としています。それではなぜ週3回4時間透析なのかと疑問に思う患者さんがいるかもしれません。自分は3時間で自覚症状もないし、透析時間が短い方が楽なんですーと言う患者さんもいます。でも、院長は3時間の人には4時間透析を勧めています(もちろん超高齢者の方は3時間でも大丈夫の場合もあります)。その理由をお知らせします。
この図は2009年に日本透析医学会が発表した日本全国の透析施設の調査結果です。見方が難しいかもしれませんが、じっくり眺めて理解してください。
まず、横軸は透析時間です。1回の透析時間が長くなれば右側に移動します。短くなれば左側に移動します。つまり、週3回4時間透析をしている人は、4.0と4.5の間に入るのです。週3回3時間透析をしている人は0.0と3.5の間に入ります。次に縦軸です。これは死亡リスクを表していて、上に行くほど死亡率が高くなり、低いほど死亡率は低くなります。つまり、透析していて長生きするためには棒が低い方がいいのです。4.0-4.5時間透析の患者さんの死亡率を1.0として比較しています。それぞれの色は他の影響を補正した値ですが、今回はあまり気にせず棒の高さを見てみましょう。3.5時間未満の透析患者さんは明らかに4.0-4.5時間透析の人よりも棒が高いですね。つまり、死亡率が高くなるのです。それに比べて、5.0時間以上の患者さんは4.0-4.5時間の患者さんよりも少し低くなっています。つまり、死亡率が低く、長生きできるのです。
この図からいえることは、透析時間が長いほど元気で長生きできる可能性があるのです。このようなデータがあるのに、3時間でいいと頑張るのは損だと思います。僕が透析医療に携わった48年前は透析の機械もダイアライザーも効率が悪く、多くの患者さんが亡くなりました。夜中までベッドサイドに付き添って眠い目をこすりながら透析をしていました。医者よりも患者さんの方が大変だったと思います。研修医の時に横須賀共済病院で思い出に残る患者さんは、海上自衛隊の中年のがっちりした隊員でした。ギリギリまで職務をしていたのか、救急車で運ばれてきたときは心不全と肺水腫で全身がむくんで呼吸困難の状態でした。もちろん今のようなエリスロポイエチンなどの造血剤はなく、また、内シャントも考案されていなかったので、緊急に動脈と静脈に管を入れ(外シャントといいます)、血液透析を開始しました。貧血がひどく、同僚の隊員を集めて同じ血液型の血液を緊急で採血し、透析のプライミング(回路に入れる血液)に使いました。透析の効率(老廃物を除去する力)が悪いので昼も夜も持続で血液透析をしました。3日目ぐらいから元気を取り戻し、何とか一命をとりとめることができました。こういう経験を沢山していると、現在の透析機械とダイアライザーのすばらしさは筆舌に尽くせません。しかし、最初に示したようにまだまだ本当の腎臓の働きには及ばないのです。そのため、最低でも4時間透析を行い、老廃物を除去する必要があるのです。透析時間が長ければ老廃物も多く除去されるのです。その指標は、KT/Vというものが使われています。透析効率についてはまたの機会にお話しします。
江北の空から 4号 20190109
明けましておめでとうございます。内科外来を始めました。
新年となっても透析患者さんにとってはお休みがありませんね。あだち江北メディカルクリニック(AKMC)も透析は元旦だけを休み、30日の日曜日と31日に透析を行い、1月2日から通常の透析治療を行っています。透析患者さんも大変ですし、職員も休めません。医療に携わってから暮れと正月をまともに休んだ記憶がありません。職員家族も文句がつけたくなるでしょうが、そこはグッと我慢していただき、大らかな気持ちで笑顔をつくって職員の出勤に協力してください。もちろんやよい会はブラックではありませんので?、かわりばんこに休暇をとれるようにしてあります。今は病院の過剰労働(ブラック)が問題になっていますが(聖路加病院がやり玉にあがりました)、大学を卒業して研修医の時は、病院泊まり込みが当たり前でした。先輩と一緒に透析液を作ったり、急性腎不全の急患の治療をしたり、新しい透析医療技術を学んで苦しいけれど楽しい時間でした。でも時代は代わったので、勤務時間を厳守するように指導しています。
1月7日から外来診療を始めました。ご家族でもお知り合いでも体の調子が悪ければ診察いたします。診療は、月、火、木、金の4日/週から始めましたが、今年中には連日にする予定です。外来担当医は慈恵医大出身の優秀なやさしい内科専門医の山口先生です(かつてあだち入谷舎人クリニックの院長先生でした)。9時から12時までと、14時から17時までです。腎臓に不安を抱える方も一般の患者さんも受け付けます。よろしくお願いします。また、院長の飯野や副院長の出口先生(代々木山下の関連クリニックー代々木ステーションクリニックの元院長です)に外来診療を希望する場合は、時間の予約をしていただければなるべく対応するようにします。われわれ医療者は患者さんのために生きているのです。
昨年11月21日から開始したPTA(血管拡張術)は毎週水曜日に定期的に行っています。シャントが詰まってからでは遅いのでシャントが心配な方は相談してください。
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院長の伝言(高血圧の話・第一話)
今月は高血圧のお話です。透析患者さんは血圧が高い人が多いですね。血圧は心臓での血液を出す力(心拍出量)と血管の硬さ(末梢血管抵抗)の2つで決まってきます。透析患者さんは塩分を腎臓から出せないため血液量が増加し、その結果心臓が頑張って心拍出量が増加して、高血圧になります。従って、理論的には降圧薬を使わずに、適切なドライウエイトを達成する透析によってほとんどの透析患者さんの高血圧はコントロールできるのです(DWの調整)。
それでは、高血圧の最新の情報を今月はお届けします。われわれが患者さんの最新治療に参考にするのは何だと思いますか。20年以上前は医学書と呼ばれる持てないくらい厚い本です。でも、インターネットが発達したので情報がすぐに届きます。そこで治療の参考になる信頼できる臨床研究を集めたサイトを見るのです(もちろん英語です)。僕が見ているのはUpToDateという有料サイトですが、そのほかにブログにも書きましたようにNew England Journal of Medicineなどの信頼できる医学ジャーナルも見ています。今回はそのUpToDate -医学最新知識と訳すのかなーから高血圧についてまとめます。一つ注意することは、アメリカの情報なのでそのまま日本人にあてはまるかは注意が必要ですが、世界的な高血圧の考え方がわかります。日本高血圧学会も欧米のガイドラインに近くなっています。それについても触れます。
まず、2017年にAHA(アメリカ心臓協会)が発表したガイドラインです。一般人(透析患者ではありませんが)の正常血圧は収縮期血圧<120、拡張期血圧<80 です。皆さんはここで驚かなければいけません。日本の透析患者さんのほとんどはこの中に入らないのです。このことを勉強している透析スタッフも少ないのです。一般人の高血圧基準(ステージ1)は収縮期血圧>130、拡張期血圧>80です。ステージ2は収縮期血圧>140、拡張期血圧>90です(これが昔の高血圧基準ですね)。じゃあ、透析患者はいくつがいいのでしょう。日本透析医学会のガイドラインでは透析開始時の収縮期血圧<140、透析終了時収縮期血圧<120です。つまり日本の古い高血圧基準に当てはまらない開始時血圧(<140)で透析を開始し、正常血圧(<120)までもっていくのが基本なのです(この基準は科学的根拠がない経験からのガイドラインです)。あなたの血圧はまたまた当てはまりそうもありませんね(達成できている透析患者さんは少ないのです)。では欧米では、なぜこのように低く設定しているのでしょうか。これは多くの患者さんからのデータを集めて結論しているからです。例えば、日本の透析患者さんの死因の第一位が心不全です(25%、つまり透析患者の4人に1人が心不全で亡くなるのです)。ちなみに2016年末のデータでは二番目が感染症、三番目が癌です。これらも注意が必要ですので別の機会に話しますが、あだち江北メディカルクリニックでは感染症と癌に関しても対策を練っています(CTを含めた定期的検査など)。その心不全や心臓死は収縮期血圧が<120と<140では2倍の危険性が<140であるのがわかっています。つまり、透析患者さんの降圧目標を<140にすると<120にした時より2倍死亡するのです。血圧をコントロールするだけで日本の透析患者さんの心不全死を半分に減らせるのです。それなのになぜほとんどの透析クリニックでは血圧コントロールを厳格にしないのでしょうか? 160以上の透析患者さんは多いですね。これは透析患者さんが透析中に血圧が下がりショックになるのを嫌うため(透析低血圧はいろいろな方法で防げます)、透析クリニックの医師や職員が血圧を高めに設定するからです。これは本末転倒ですね。自分が楽をするために患者さんに負担をかけているのです。ある透析クリニックでは昇圧薬(ドップス、リズミック、メトリジンなど)を低血圧予防のためほとんどの患者さんに定期投与しています(これも楽をするためとしか考えられませんーチコちゃんとおなじように院長は怒っています)。これらの薬剤は血管に負担をかけ将来的には血管を痛める結果になります。あだち江北メディカルクリニックではこれらの昇圧薬は基本的には使用しません。開院時には10人以上の患者さんがこの昇圧薬を定期使用していましたが、3か月後の現在では投与している人はいません。昇圧薬を投与しなくても十分良質な血液透析ができるのです。
血圧の話はいろいろあるので1回目はこのくらいでまとめます。あだち江北メディカルクリニックの血圧管理は、透析前収縮期血圧を<140、透析後収縮期血圧<120を目標とします。もちろん高齢者では動脈硬化があるので高めに設定することもあります。個々に院長と副院長が相談して決定します。また、昇圧薬を基本的に使用しません。
南米ベネズエラにあるギアナ高地のエンジェルフォール
江北の空から 創刊号 20180905
やよい会 あだち江北メディカルクリニック
123-0872 東京都足立区江北4-28-27 TEL 03-3897-2891
2018年10月からオープン。
あだち江北メディカルクリニックは舎人ライナー江北駅の西、徒歩2分の場所にオープンします。慢性腎不全(CKD)の透析患者さんを治療するのがメインですが、将来的には一般内科、糖尿病外来も併設する予定です。
当クリニックでの透析の特徴
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最先端の透析医療を目指します。
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HDF血液ろ過透析が全てのベットで可能です。
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男・女別室で透析を受けられます。
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WiFi, テレビが無料です。
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シャント手術、血栓除去術、PTAが可能です。
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最新の電子カルテを導入し、患者さんに最適の治療を行います。
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無料送迎を実施します。
スタッフ
院長:飯野靖彦 東京医科歯科大学卒、NIH、Harvard大学留学、日本医科大学名誉教授。
副院長:出口文佐栄 東京医科歯科大学卒
看護師長:下村恵子 現あだち入谷舎人クリニック
技師長:佐藤和豊 現あだち入谷舎人クリニック
事務長補佐:柴泰雄 現あだち入谷舎人クリニック
やよい会理念と基本方針(v5)
理念
医療は、患者さん、その家族、医療者のすべてに幸せをもたらすものでなければならない。
基本方針
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患者さん中心の医療を行う。
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患者さんと職員がお互いを思いやる。
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クリニック内を明るく、気持ち良い空間にする。
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最良・最新の医療を提供する。
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地域医療に積極的に参加し、統合医療を目指す。
やよい会は松和会グループの一員であり、日本の透析医療に貢献しています。
やよい会には当クリニックも含め、北千住東口腎クリニック、あやせ駅前腎クリニック、秋葉原腎クリニック、あだち入谷舎人クリニック、立石腎クリニック、門仲腎クリニック、豊洲腎透析クリニック、あだち五反野腎クリニックの9透析施設があります。
あだち江北メディカルクリニックに関してご連絡は以下にお願いいたします。
9月中 あだち入谷舎人クリニック 03-5839-6201
10月以降 あだち江北メディカルクリニック 03-3897-2891
江北の空から 1号 20181006
2018年10月から順調にオープンしました。
あだち江北メディカルクリニックは2018年10月1日から、改装中のあだち入谷舎人クリニックの患者さんの臨時透析を行い、オープンしました。2週間の予定で臨時透析を行い、江北に住所が近い希望する患者さんは、そのまま“あだち江北メディカルクリニック”で透析治療を継続する予定です。オープン1か月前から、スタッフは早朝から夜遅くまで患者さんの透析がうまくいくように準備をしていました。前日の日曜日にも全員が出勤して最終のチェックをしました。そのおかげで初日の月曜日も2日目の火曜日も大きなトラブルもなく透析医療ができました。医療は奉仕精神がないとやっていけません。院長はすべてのスタッフと臨時透析にご協力をいただいた患者さんに深く感謝しています。このクリニックを患者さんとスタッフが生き生きと明るく診療できる空間にしたいと思っています。
この“江北の空から“は患者さんと医療スタッフの意思疎通のために毎月皆さんのお手元に届けさせていただきます。患者さんの透析生活をより充実したものにするために医療スタッフから情報を提供し、役立ててほしいと思っています。また、患者さんの透析生活での疑問があれば何なりとスタッフにお伝えください。紙面で詳しく説明いたします。
院長の伝言(やよい会の理念と腎臓の働き)
やよい会の理念は創刊号にも示しましたように“医療は患者さん、その家族、医療者のすべてに幸せをもたらすものでなければならない”です。今回は、やよい会の理念を作った経緯についてお話します。院長が日本医科大学腎臓内科教授を務めていた時に、特に医学生の教育に力を注いでいました。医学部は6年間の医学教育があり、厳しい試験や実習を経て卒業し、最後に難しい国家試験に合格しなければなりません。医学の知識だけでなく、倫理観や正義感など人間としてまた、医師として必須の教養も教えます。ある時、医学教育について作家の柳田邦男さんに講演に来ていただきました。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、柳田邦男さんの息子さんは自死なさいました。その責任を強く感じどのように病気の人に対応したらいいのかを話してくれました。その中に、“2.5人称で医療を考える“ことが重要だと言っていました。つまり、1人称の患者さん、2人称の医療者、そして2.5人称の家族のすべてを考えて医療を行わなければならないのです。その言葉に感動し、院長もずっとその方針を保持し、自分の言葉に置き換えて、やよい会の理念としました。
最初から堅い話になって申し訳ありません。次回からはもっと透析生活に役立つお話をしますが、今回は腎臓の働きについてお話します。
腎臓は背中の下の腰骨の上あたりに位置する臓器です。細菌が入って炎症を起こすと(腎盂腎炎といいます)、背中の下をこぶしで叩いた時に痛みを感じ、診断の助けになります(叩打痛)。大きさはこぶし程度で左右2個あります。糸球体腎炎や糖尿病や高血圧で腎臓が悪くなるとなぜ片方ではなく、両方が同時に障害されるのか? 皆さんは疑問に感じますね。これは血液の免疫異常(糸球体腎炎)、高血糖や高血圧による血管障害(糖尿病・高血圧)が血液を通して両方の腎臓に同時に悪さするためなのです。
さて、本題の腎臓の働きです。4つの働きがあります。1)水や塩分の調節、2)老廃物の排泄、3)血液pHの調節、4)ホルモンの産生 です。
生命は海から生まれその組成を血液の中に保って全身の細胞が生きています。腎臓はその血液中の水の量や塩分量をきちんと調節しています。腎臓機能が低下している透析患者さんでは透析によって体の水の量と塩分濃度を調節しています。
次に老廃物の排泄です。食事制限でたんぱく制限をすることがあります。たんぱく質には窒素(N)やリン(P)が多く含まれており、これは腎臓から排泄されます。つまり透析患者さんでは尿素窒素などの蛋白代謝産物やPが蓄積するのです。透析によって蛋白代謝産物やPは除去できます(なるべく長時間透析した方が多く抜けます)。
血液はpH7.40と少しアルカリ性ですが、腎臓が悪くなるとアルカリが作れなくなって血液が酸性になります。透析液にはアルカリが入っており、血液をもとのpHに戻します。
また、腎臓からは血圧を調節するホルモンや赤血球を作るホルモン(エリスロポイエチン)が分泌されており、腎臓が悪くなると血圧が高くなったり、貧血になったりします。これも透析患者さんに薬を投与することでコントロールできます。
簡単に腎臓の働きとその働きが低下した透析患者さんの治療についてお話ししました。
詳しく知りたい方は、スタッフや回診の医師にお尋ねください。時間のある限り説明します。
江北の空から 2号 20181101
55名の仲間とスタートしました。電子カルテの導入、そして、足立区長近藤やよいさんと面談しました。
あだち江北メディカルクリニック(AKMC)は10月1日からスタートし、10月15日からはAKMCで継続透析治療を受けられる55名の仲間(患者さん)と毎日を過ごしています(月水金、火木土の午前と午後の4クール)。12月からは透析治療の完全電子化に向け、透析機器と電子カルテをつなぎ、医療の効率化と安全性を高めようと思っています(透析支援システムと電子カルテの一体化は日本でも数施設で行われているだけです)。そこで透析治療後から夜10時頃までスタッフ全員が電子カルテの講習を受けています(院長のような高齢者には大変です)。電子カルテで透析中の患者さんの状態や処方、検査結果、X線撮影像、心電図などがすべて把握でき、紙カルテよりもミスの少ない質の高い医療ができます。また、電子化で容易になるので、ホームページで透析の成績(死亡率、検査データなど)も公表する予定です。医療は患者さんとの信頼関係を作るために、透明性が絶対に必要です。
あだち江北メディカルクリニック開設の報告と足立区の医療・介護・福祉への協力をするために、足立区長の近藤やよいさんを10月18日に院長、事務長、事務長補佐と訪問いたしました。足立区は24.15%の高齢化率であり、23区では北区に次いで2番目に高齢化率の高い区です。大病院も少なく今後の医療政策が重要になってきます。近藤やよい区長は積極的に施策を実行に移す、有能な区長であり、北千住への大学誘致や再開発、女子医大東医療センターの江北への誘致など区民のために業績を上げています。忙しい中を笑顔で対応していただき、感謝しています。
医療法人社団やよい会も足立区の医療政策の一助になるように貢献していきたいと思います。
院長の伝言(不眠症のお話)
今月は不眠症のお話です。透析患者さんは夜眠れないと訴える方が多いです。これは透析患者さんが高齢化しているのも一因です(年をとると睡眠時間が減ります)。また、睡眠時無呼吸症候群(寝ている時に息が止まる)、むずむず脚症候群(足をじっとしていられない)、睡眠時周期性四肢運動(寝ているときに手足が動いてしまう)などの透析合併症もあり、これも不眠症の原因になります。しかし、安易に睡眠導入薬(睡眠薬は眠りを誘うだけで熟睡させる薬ではありません)を飲むと、高齢者透析患者では転倒の危険性があり注意が必要です。また、ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬(よく用いられる、ハルシオン、デパス、レンドルミン、なども含まれます)は翌日への持越しやアルツハイマー病になりやすくなるなどの危険性が近年認められています。欧米では使用が控えられています。
それではどうしたらいいのでしょうか。不眠症治療ガイドラインが日本と米国で作られています。それに従ってどうしたら眠れるかお話しします。
まず初めに眠りやすくする環境づくりです(睡眠衛生と言います)。睡眠中は体温が低下し、昼間長く起きているほど睡眠が深くなります。就床・起床時間は固定し、起床直後に太陽光にあたり、寝室を暗く静かにしてテレビや本を持ち込まずに睡眠専用とします。運動と入浴をし、寝る前のコーヒーは避ける、などの注意が必要です。赤ん坊が眠くなると手足が温かくなるのは、睡眠準備として体温を下げるために手足に血液を送り皮膚から熱を外界に逃がしているのです。寝具を使用する場合、室温は16-19度、湿度は50-60%がよく眠れるといわれています。
次に眠りを誘導する行動をすることです(認知行動療法と言います)。これは看護師さんや医師の指導で一緒に行いますが、就床時間を遅らせて実際の睡眠時間に近づける。寝室を眠るだけの場所にする(眠くなってから寝室に行くー眠れなければ別室で過ごすー定刻に起床し、昼寝をしない)。リラックスする(腹式深呼吸、瞑想、入浴)。寝るときは心配事を考えない。など目標行動設定(寝付くための飲酒を止めるなど)を行い、実行できたか表にするのです。この認知行動療法は睡眠導入薬と同じくらい有効で眠れるようになります(70-80%の成功率)。もし興味があれば医師、看護師に相談してください。
睡眠衛生、認知行動療法でも眠れないしつこい不眠症にはやはり睡眠導入薬が必要です。ガイドラインでは、前にも述べましたベンゾジアゼピン系睡眠薬はファーストライン(最初に使う薬)から外れました。最近では新しい睡眠導入薬が2つ開発され、透析患者さんにも使用できます。一つはメラトニン受容体作動薬(夜分泌されるメラトニンは覚醒を抑制―眠くする物質ですーロゼレムはメラトニン作用を増強します)、もう一つはオレキシン受容体拮抗薬(オレキシンは覚醒を維持する物質ですーベルソムラはオレキシンを抑制し眠くなります)です。これに加えて非ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬(マイスリー、アモバン、ルネスタ)があります。この3種類を使って、睡眠衛生や認知行動療法でも眠れない患者さんには対応します。あだち江北メディカルクリニックではロゼレムとベルソムラを使い、それでも眠れない方には非ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬を処方します。ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬はなるべく処方しないようにします。ご理解のほどお願いいたします。
まとめますと、不眠症の透析患者さんは、まず眠りやすい環境を整えて(睡眠衛生)、眠るための習慣的行動を取り入れ(認知行動療法)、それでも眠れなければ、睡眠導入薬のメラトニン受容体作動薬(ロゼレム)やオレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ)を用い、それでも駄目なら非ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬のマイスリー・アモバン・ルネスタを用います(睡眠ガイドラインに基づいたあだち江北メディカルクリニックの方針であり、他の医療機関では異なるかもしれません)。
最近、院長が嵌っているのがNHK金曜日夜の“チコちゃんに叱られる”というクイズ番組です。5歳のチコちゃんが大人のなんとなく見過ごしている疑問を指摘して、わからないと“ボーっと生きてんじゃねーよ!”とあまり上品ではない言葉で一喝するのです。正解が出ると“つまんねー奴”と不正解を期待しているようなへそ曲がりの反応をします。“ボーっと生きてんじゃねーよ!”を聞くと自分自身に言われているようで、自分の生きてきた七十数年を一瞬のうちに走馬燈のように反省します。講演があると最近はこのチコちゃんのスライドを毎回使って聴衆の皆さんに披露しています。チコちゃんはどうやら高齢者に人気があるようです。へそ曲がりの点が共通点かな?
写真左 室岡事務長、近藤やよい足立区長、
飯野理事長(院長)、柴事務長補佐
写真右 NHK チコちゃんに叱られる
江北の空から 3号 20181205
電子カルテが12月から運用開始です。島嶼医療研究会で講演しました。
あだち江北メディカルクリニックは10月にオープンしてから早くも3か月目に入りました。新しい仲間も加わり、患者さんは64名になりました。この2か月は優秀なスタッフによって安全に透析医療を行っています。やよい会の基本方針にもありますように“患者さん中心の医療を行う”ことを第一に考えています。スタッフの教育も少しずつすすめていきます。ご意見がありましたら、なんなりとお申し付けください。できることはご要望に応えていきたいと思っています。
12月から透析支援システムと電子カルテが一体となった電子カルテシステムを導入しました。本格運用から数日たちましたが、良好に運用されています。慣れるまでは患者さんにご心配をかけるかもしれませんが、慣れてくれば、スタッフの手間も省け、情報量も増えるので、より患者さんの治療が向上すると思っています。将来的には患者さんに電子カルテを開示していこうと思っています(医療の透明性が重要です)。自分の透析治療がわかるようになります。治療を医師やスタッフ任せにしてはいけません。自分の体は自分で守るのです。
11月30日に島嶼(とうしょ)医療研究会で特別講演をしました。都立広尾病院で行われた研究会には50人以上の方が参加され、島の医療をいかに良くするかが討論されました。広尾病院の先生方は精力的に島の医療に携わり、医療の原点を見るような気がして、敬服しております。特別講演に招かれた理由は、今から24年前の平成6年7月25日に伊豆諸島で最初の血液透析が神津島で始まった時に、僕も協力した一人だったからです。その時は伊豆諸島に血液透析施設はなく、腎不全で透析が必要な患者さんは生まれ育った島を離れざるを得なかったのです。僕の患者さんの家族が透析になったので、東京都と協力して神津島に血液透析施設を作りました。患者さんも前向きに行動することが必要です。なんでもチャレンジすれば不可能はないのですね。
毎週水曜日はPTA(経皮的血管拡張術)を行っています。すでに3人の患者さんに施行し、成功しています。もし、シャントの流れが悪い方がいらしたらスタッフに相談してください。詰まってからでは大変なので、早めにPTAを行うといいです。他施設からも受け入れます。
この“江北の空から“はあだち江北メディカルクリニックのホームページでも見られるようにしました。創刊号から最新号まで載せてあります。また、院長のブログも頻繁に更新しています。是非、見てください。透析室は無料のWiFiがつながっていますので、スマートフォンでもタブレットPCでも見られます。
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院長の伝言(便秘の話)
今月は便秘のお話です。透析患者さんは便秘の方が多いですね。これは患者さんが水制限をしていたり、K制限のために食物繊維が不足していたり、運動不足だったり、リン吸着薬の副作用だったり、糖尿病や加齢で腸の運動が低下していたり、いろいろな原因で便秘になります。ある調査では透析患者さんの60%に便秘があるとされています。一般人では平均14%なので、透析患者さんの便秘は非常に頻度が高いといえます。その原因の中でも水制限やK制限はやめるわけにはいきませんし、リン吸着薬も必要ですし、糖尿病や加齢は治すことはできませんから、結局この原因の中で患者さんができることは運動と生活習慣です。運動やストレッチで腸管の動きをよくすることが便秘解消につながることもあります。生活習慣では食事反射で排便刺激が強くなるのは朝食後であり、朝食後は定期的にトイレに行って座ることが重要です。
でも、透析患者さんの便秘は運動や生活習慣の改善で治ることは少なく、どうしても薬に頼る必要があります。でも、薬を使う前に便秘には大きく分けて2種類あることを知らなければなりません。ほとんどの透析患者さんの便秘は、機能性便秘といい、腸の運動が悪いために起こります。それに対して、腸が詰まったり(癌や癒着など)して起こる器質的便秘があります。この器質的便秘はきちんと検査して早急に手術や薬で治す必要があります。透析患者さんの機能的便秘では薬の影響や腸管運動の低下や糖尿病や腎不全そのものが原因となります。慢性便秘を起こす薬剤は多く、痛み止めのモルフィンやコデイン、喘息の抗コリン薬、精神科の薬、パーキンソン病の薬、降圧薬のカルシウム拮抗薬、抗不整脈薬、など挙げればきりがありません。透析患者で多く使用される、K吸着薬、P吸着薬は便秘を起こしますので、飲み始めてから便秘になったら主治医に相談してください。対応してくれます。
それでは、あだち江北メディカルクリニックの透析患者さんへの便秘薬の投与方針についてお話しします。便秘の薬には刺激性下剤(腸を刺激します)と非刺激性下剤(腸には直接刺激しません)があります。皆さんがよく使われるセンナ(プルゼニドやアローゼン)は刺激性下剤です。刺激性下剤は腸管運動を低下させ腸管を拡張させてしまいますので、なるべく使いたくない下剤です。それでは何を使えばいいのでしょうか。まず、非刺激性下剤を使いましょう。透析患者さんはマグネシウムが溜まる可能性があるので非刺激性下剤の代表の酸化マグネシウムは使えません。でも最近3つの新しい非刺激性下剤が使用できるようになりました。それはアミティーザ(腸のクロライド輸送に関係します)、リンゼス(クロライド輸送と神経に作用)、グーフィス(胆汁酸輸送に関係します)です。あだち江北メディカルクリニックではまず最初にこれらの非刺激性下剤を投与し、それでも改善しない場合には、水を腸管内に引っ張る(浸透圧性下剤)薬ソルビトールを加えたり、一時的に刺激性下剤のアローゼンやプルゼニドを使用します(極力最小限の使用)。今までアローゼンやプルゼニドに慣れてきた患者さんには徐々に説明して納得していただいてから薬を変更する予定です。
透析患者さんは長期に薬を飲むので、なるべく副作用の少ない薬を選んで処方していきたいと思っています。もちろん患者さんの希望も入れながら、患者さんに最良の薬を選びます。
まとめますと、透析患者さんによく用いられている刺激性下剤のセンナ(プルゼニドやアローゼン)はあだち江北メディカルクリニックでは最初から出しません。非刺激性下剤(アミティーザ、リンゼス、グーフィス)を最初に処方しそれでも効かない場合にセンナをon demand (必要な時だけ)で処方します。
よろしくご理解のほどお願いします。
島から救急患者さんをヘリコプターで輸送するところ(院長はまだ若かったー赤いジャケットと白パンのお兄さん)